2020/04/26 漢字文化圏の人に日本語を教える
台湾人に日本語を教えている。かりにAとしておこう。
Aは台湾在住なのだが、Zoomを使って何も問題なく教えることができる。
目次
そもそも、どうやって知り合ってん?
おかしな話ではあるが、withで知り合った人である(アフィリエイトはもらってないよ。むしろ、広告収入くれなるならくれ)
当然ながらAは台湾在住なので、直接あうことはできない。
したがって、「完全な暇つぶし」(Aには申し訳ないけど)で、やっていたメッセージのやり取りであった。
そのうち、Aが日本語勉強をしていることがわかって、「ほんなら、日本語をぼくと勉強してみる?」とぼくが語りかけて、勉強を始めたというわけだ。
いまのところ、週に1回くらい、不定期でやっている。
日本語を教えることについて「暇つぶし」と片付けることもできる。
もう少し細かくしてみると「日本語話者であるぼくが、どのように日本語の構造を説明できるだろうか?」という疑問から始めた活動とも言える。
Aってどんな人
人となりはよーわからんが、言語能力についてぼくの知っている限りでは次の通り。
- 日本語レベルは簡単な文の読解が可能。
- 聞き取り・発言・文生成が苦手。
- 日本文化が好きで日本語の勉強している(ジャニーズとか、どうぶつの森とか)
- 英語は理解しないが、世界共通レベルの英単語くらいならば理解できる。
- Aは週に1回くらい日本語の授業を受けてる。
以上から、「日本語で日本語を教える他に手段がない」という状況である。
Aは台湾人で、漢字文化圏の人間なので、大半の漢字は理解できるようだ。
こういうところから、読解はそれなりに可能なのだろう。
どうやって教えているのか?
だいたいの教え方スタイルを構造化すると、次のとおり(試行錯誤の結果)
- 完全にZoomで教える。
- ぼくがスクリーンシェアをする。スクリーンシェアでやさしい日本語ニュースを見せる。
- やさしい日本語ニュースから記事を選んで、ぼくが読み上げをする。
- 1文ごとにAの理解の確認をする。
- 1段落の読み上げが終わったら、ぼくが段落内の情報について質問する。
これだけ書くと、簡単なように見えるが、だいたい1記事をやりきるのに、1時間強かかる。
どうしてぼくが読み上げするのか?
Aは日本語の発音が苦手である。
なので、いちいちAの発音を直していたら日が暮れてしまう。
どんな質問を投げかけるのか?
例えばきょう教えた内容はこのニュース。1つ段落を見せる。

この段落だと、こんな質問を投げかける。
- 大棟さんは、何のために、道化師をしているのですか?
- 大棟さんは、何人の仲間がいますか?
- 大棟さんは、どうして病院にいくことができませんか?
このあたりの質問組み立ては、ぼくが外国語学習をしてきた経験からやっている。
いままで4語を学習してきたが(英語を除く)、
だいたい、どの言語でも初期学習段階では、これくらいのレベルの質問が出される。
たぶん、普遍的な学習法と言えるだろう。
教えたこと
ってか、なんで記事を書こうと思ったのか?
「Aがわからないこと」は「日本語文法で難しいところ」と言い換えることができるだろう。
ということで、難しいところ少しづつ書き溜めていくことにした。
きっと、経験になるだろう。
熟語の概念
きょう、一番むずかしかったところ。
「ずつ」ってどういう意味ですか?と質問された。
大棟はパソコンを通とおして、1人ひとりずつ子こどもの名前なまえを呼よんだり
https://www3.nhk.or.jp/news/easy/k10012402641000/k10012402641000.html
10秒くらい悩んだが、「熟語」として処理して説明することにした。
「(数)ずつ 呼ぶ」と教えると、間違いではないだろう。。。とそう考えたのだった。
しかーし、Aは熟語の概念を理解していなかった。台湾語には熟語の概念がないのだろうか・・・?そんなわけないと思うが。
結局のところ「2つの単語と単語が一緒に出現すること。ルールがあるわけではない」とAは理解してくれた(と思う)
しかし、なんでもかんでも熟語で処理してしまうのは、日本語文法を教えるにあたって敗北感がある。大棟さんに負けた。
余談だけど、
以前、熟語の概念をドイツ人にはFest Nomen(動詞に対して固定された名詞)と教えたことがある。
「えーまじかー。覚えるのめんどいよー」と言いながら、すぐに理解してくれた。
ガーデンパス文
ガーデンパス文って、本当にやっかいだと思う。
ぼくも外国語学習者として、ガーデンパス文の厄介さは理解している。
教えるときは、こういう風に、簡単な構文木を描くようにしている。
イラストだけみると、伝わりづらいが次のように構文木を描きながら説明してあげると理解してくれる。ポイントは述語と格のペアごとに分解してあげること。
- 「見る人は大棟さんです。」
- 「喜ぶのは子どもたちです。」
- 「大棟さんは子どもたちを見ます。」

(A否定)ても (B)
この文の「ても」を、Aは理解できなかったようだ。
自由がなくても楽しいことができると思いました。
https://www3.nhk.or.jp/news/easy/k10012402641000/k10012402641000.html
なので、「だけど、しかし」の接続詞を使って2文に分解すると、Aは理解してくれた。
- 自由はない。だけど、楽しいことはできる。
- 自由はない。しかし、楽しいことはできる。
この後に、「お金はない。しかし幸せです。」を「ても」を使って書きましょう、と練習すると、Aはすぐに習得してくれた。
順序関係:まずは、つぎに、さいごに
こうやって教えた。

そういえば、「まず、つぎに、さいごに」は文法上の分類にどう定義されるのだろう?と思った。序数詞かな?
Wikipediaの記事をみると、どうも違うらしい。(本題からはずれるが、日本語は序数詞が未発達な言語に分類されるらしい)
結局、わからなかった。
そういえば、mecabでは順序関係の語はどのように定義されているのだろう?と思った。
調べてみると、副詞らしい。

接続詞:だから、ために、たら
Aは違いがわからなくて、混乱したらしい。
きっと、論理に落とし込むと理解が早いと思った。
予想どおり、次の説明ですぐにAは理解してくれた。
(口頭で伝わらないことは確実なので、チャットで書いた)
- 「だから」は原因と結果の論理関係。「(原因)だから(結果)」
- 「ために」は目的と手段の論理関係。「(目的)ために(手段)」
- 「たら」は原因と結果の論理関係。「(原因)したら(結果)」
練習問題を即興で作ってみたら、Aは正しく回答してくれた。
理解してくれたということは、台湾語でも漢字の意味は、ほぼ同じことを意味するのだろう。
日本語教師ってすごい
改めて思う。日本語教師ってすごい。
強化学習感がある
中間言語なしで言語を教えるのは、割と強化学習感がある。
ぼくも1つの強化学習器で、Aも1つの強化学習器。
- ぼくの側は、関数がAがわからない箇所に対して最適そうな回答選択する関数。報酬はAの反応。
- x'=f(Aがわからないこと) where f(Aがわからないこと) が最適な回答選択
- Aの側は、関数がぼくの発言を解釈して解釈結果を返す関数。報酬はぼくの反応。
- x'=f(ぼくの発言) where f(ぼくの発言)が理解結果を返す関数
つまり、自分を強化学習器と思えば失敗に気にならなそう。
そのうち、なぞの強化学習型じんこーちのー集合が現れて、人間をいいかんじにチューニングしてくれるだろう。
というわけで、これからの社会、このイラストでいんじゃないだろうか。

おしまい。
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